元々はハクダンシティに住んでいるとある人間の老女と共に暮らしていたのだが、
"手違いで進化し、姿が変わってしまった"という理由で、20番道路に捨てられてしまった。
その老女に恨みや憎しみを抱くことはなく、願わくばもう一度会いたいとだけ思っている。
尚、老女から付けて貰った名前は唯一残った大切な宝物であり、今でもその名を名乗り続けている。

ヴィクトルが20番道路に捨てられた時、20番道路で暮らす者達からは、
居るはずのない種族・さらには色違いだということから、危険な存在だと見なされ、追い出されそうになっていた。
様々な種族の者達が襲い掛かって来たが、自分が敵意がないことを示すために無抵抗を貫き、
かつ気を失わないようにと必死で意識を保ち続けていた。
彼の異常な執着性に恐れを抱く者たちも居たが、それと同時に彼の超人的な強さに感服している者達も居た。
襲い掛かって来た連中の手が止まり始めた時に、彼の自分の身の上話をし、
「迷惑はかけたりしない。だから、ここで暮らすことを許して欲しい」と共存を願い出た。
その場に居た者達はざわついていたが、次第に静かになり、自分を襲ってきた連中のひとりに「受け入れよう」と返された。
こうして彼は、20番道路の一員となった。

彼が20番道路で暮らして数年が経った頃、20番道路で見覚えのないボクレーの少女が保護された。
その少女は20番道路とは違う場所で暮らしており、ある日突然母親に家から追い出されてしまったらしく、
「なぜ自分が家を出なければならなかったのか、母親に嫌われるようなことをした覚えはないのに」
と、涙を溢しながら自分の身の上話を続けていた。
自分と同じように大切な家族から"捨てられてしまった"少女を見て、
事情をよく知らないながらも、「自分がその少女に寄り添えないか」と
ヴィクトルは考えるようになった。そして、
「俺がきっとお母さまの元へ連れて行く！」と、少女に約束していた。

少女の記憶を頼りに、ヴィクトルは少女の住居へ歩みを進めていた。
その時に少女から、少女の趣味や好きなもの、故郷での思い出、大切な両親の話を聞いていた。
本当の家族と早くに別れ、やっと出会えた新しい家族とも結局は離れてしまった自分では、
成し得なかったその輝き溢れる日々を、少女が取り戻せるように…
少女が自分と同じ道を歩まないようにと、そう強く思っていた。

少女の住居に辿り着き、少女の母親に会ったが、ヴィクトルが話を始めようとした瞬間に
「寄らないで」「汚らわしい」「消えて」と、少女の母親は錯乱気味に叫んでいた。
ヴィクトルが落ち着くようにと声を掛けても、自分の実の娘が泣き続けていても、母親は決して止めなかった。
…そして母親は最後に「あの屑男のように殺しておけば…！」と言い、少女に襲い掛かって来た。
ヴィクトルは少女を抱きかかえ、狂ってしまった女に追いつかれないように、少しでも早く遠くへ逃げて行った。

少女の住居から遠く離れた場所で、流石にここまでは追ってこないだろうと思いながら、
ヴィクトルと少女はその場に座り込んで息を整えていた。
自分と同じように大切な家族から"捨てられてしまった"少女は、
大切な家族にとって必要のない存在であったのだと、実母に思い知らされた。
あれだけ涙を流していた少女も、涙はとうに枯れ果てて、ただただ憔悴しきっていた。
「…なあ、もしよかったら…だけど、」
暫くの間沈黙が続いていたが、ヴィクトルの一言がそれを打ち破った。
ヴィクトルは言葉を続け、自分の思いを少女に伝え終えると、
少女が少し間を置いて、そして緩やかに笑いながら
「あなたに、ワタシの名前をつけてほしいなぁ」…と、呟いていた。

ヴィクトルは少女を、"マルグリット"と名付けた。
マルグリットは、その日から、ヴィクトルの"家族"となった。
ヴィクトルは、マルグリットは"自分と同じ道を行かざるを得なくなった"から、
自分がひとりぼっちの彼女の家族にならなければ、と。
同じようにひとりぼっちの自分が手を差し伸べるべきだと、そう思った。

ただ、ヴィクトルが"捨てられた"理由は、必要がなくなったから…ではなかった。
ヴィクトルの元トレーナーである老女は、自分の伴侶が亡くなり、その寂しさを紛らわせるために、
所謂ペットのような感覚で、幼いヴィクトルを側に置いていた。
老女が伴侶のことを思い出しては悲しい顔を見せていると、
「そんな顔をしないでくれ！」と言わんばかりに、無駄に元気にはしゃいだり、わざと失敗をしたりして、
老女に少しでも明るい表情になってほしいために、彼なりに日々奮闘していた。
そんなヴィクトルを見て、少しずつではあるが、老女はヴィクトルの存在に安らぎを感じていくようになっていった。

だが、それも長くは続かなかった。
ヴィクトルが手違いで進化し、姿が変わってしまった時に、
バケッチャの時とは違う、パンプジンの人間により近い姿を見た老女は、
「自分は誰かに、大切なあの人の"代わり"求めてしまっていたのか」と、
「もしもこの子が、自分の"ため"に行動を起こし始めたら…」と、
そう考えてしまった老女は、いたたまれなくなってしまい、
とうとうヴィクトルを"迷いの森"と呼ばれる場所へと捨ててしまった。

二度と会わずに済むように、自分のエゴに巻き込まないようにと。

ちなみに老女がつけた"ヴィクトル"という名前は老女の伴侶の名前から取っており、
名付けた当時は特に深くは考えていなかったのだが、
"ポケモンに彼の代わりを求めているのでは"という考えに至ってしまう決め手となってしまった。

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