上流階級かつ魔術を司る家柄に生まれ、魔術師である両親と双子の妹と共に暮らしている少年。
主に防壁を作り出すことが得意で、相手を眠りに就かせる術や、念動力を使うこともできる。
普段は扱わないだけで、彼の頭の中には膨大な量の術の知識が蓄えられている。

ヴォロンテは生まれながらにして優秀で、世間一般に言うところの天才だった。
彼は幼子の頃に、住処で管理している魔術に関する書物を絵本でも見ているかのように読んでいた。
読んでいた魔術書の殆どが、両親や祖先の者たちがまだ解読できていないものばかりだったが、
彼はそれを瞬時に理解し、自身の言葉に変換していた。
彼の驚異的な行動に、両親は初めこそは恐れを抱いていたものの、それが一気に高揚感に変わり、彼に様々な魔術書を読ませては、解読をさせていた。
幼かったということもあり、ヴォロンテは両親に言われるがままに、本を読み解いていった。
両親は両親で、そんなヴォロンテを見て、各々の欲望のままに魔術書を与えていった。
来る日も来る日も、ヴォロンテは本を読むことを強いられていた。
それでも両親は、ヴォロンテが一つの魔術書を解読していく度に、これ以上にはないくらい褒め称えていた。
当然、日常生活において必要な行為は制限させてはいなかったし、
ヴォロンテが疲れを見せれば、無理をさせずに休ませてもいた。
「自分が本を読めば、何を書いてあるか伝えれば、両親は喜んでくれる。」
そのように思った彼は、今から6年前まで、ありとあらゆる魔術書を読解し続けていた。

6年前、相変わらず彼は魔術書を読み解いていったが、ふと自分の双子の妹の存在に気が付いた。
「もう何年以上もろくに顔を合わせていない妹は、今何をしているのだろう。」
そう疑問に思ったヴォロンテは、両親に妹について訪ねていた。
しかし両親は妹の上辺だけの情報しか自分に与えなかった。
どんなものが好きか、どんな趣味を持っているのか、どんなことで喜ぶ感情を見せるのか、それらを問うても、両親からはあいまいな答えしか帰ってこなかった。
この時にヴォロンテは、「両親が付きっ切りで自分の側にいた」ことと、
その代わりとして「両親は双子の妹に全く構っていなかった」ということを知った。
何かに関して強い怒りや深い悲しみといった感情を抱かなかったヴォロンテだったが、
双子の妹が受けている扱いをきっかけに、両親を”許し難い存在”だと認識するようになった。
自分と双子の妹は、本来同じように愛するべき子供であるはずなのに、差をつけてしまった両親は、魔術師としては優秀だったとしても、親としては最低だと、ヴォロンテは悟っていた。

その日を境に、ヴォロンテは両親に「自分にある程度の自由を与えない限り、魔術書の解読はしない」と宣言した。
両親は、初めは理解できないという顔を見せていたが、ヴォロンテの宣言を聞き入れ、彼に自由を与えるようになった。
ヴォロンテは、その日のノルマさえこなせば、あとは好きなように活動できるようになった。
自由を手に入れた記念すべき日には、素早く魔術書を読み解き、いの一番に双子の妹の元へ向かっていた。

数年ぶりに会話をした妹は、自分に対して特に恨んでいるような様子を見せなかった。
自分はてっきり妹に嫌われているものだと思っていたので、妹の様子を見て驚いていた。
そして妹がただひとり、両親を振り向かせるためだけに努力をし続けていたことを知り、
妹の志の強さと健気なところに心を打たれていた。
自分の方が妹よりも能力的に優れていたとしても、妹の人柄は尊敬に値すべきだと思っていた。
ヴォロンテの中では、妹が誰よりも何よりも、大切な存在になっていた。

妹は友人を作ることが苦手だったようなので、それを見兼ねたヴォロンテは自分と友人の集まりに誘っていた。
人と話すことは嫌いではないみたいだが、表面的なことしか言えないようだったので、よく「もう少し素直になれ」と助言していたが、妹のその悪い癖はなかなか治らなかった。
それでもいつかは、誰とでも容易に打ち解けていくようになるだろうと思っていた。

今から3年前のことである。
「ノエル」という色違いのニャスパーの少女が、自分達の前に頻繁に現れるようになった。
別に無下に扱う理由もないので、向こうが話し掛けてくれば、こちらもそれなりに対応をしていた。
その中で彼女は「色違いであるために両親に捨てられた」という過去を持っていることを知った。
ヴォロンテはそれについては「異端な存在ならば仕方ない」「ノエルの両親の気持ちも分からなくはない」と、納得をしていたのだが、妹は違っていた。
それから数日後、妹はノエルの元へ足げく通うようになっていた。
妹の突発的な行動に、ヴォロンテは衝撃を受けていたが、「妹が何かを思って、今までしてこなかったようなことを始めようとするのなら、自分は応援するべきだ」と考え直していた。
ただ、妹に対するノエルの反応については、快く思っていなかった。

今から2年前。妹とノエルが関わり始めてから約1年が経っていた頃。
その当時の妹は、帰宅して住処に居ても、何か落ち着かないような、焦りを感じさせていた。
ヴォロンテは妹の様子がおかしいと思い、しばらくの間は妹から目を離さないようにと観察をしていた。
しかしある日、自分や自分の友人たちと別行動をしていた妹が、いつもなら住処に居てもおかしくない時間になっても住処へ戻って来ていなかった。
悪い予感がしたヴォロンテは、友人たちに呼びかけ、妹を捜索し始めた。
外は薄暗くなっていたので、妹を見つけ出すのに多少時間を要していたが、何とか妹を見つけ出すことができた。
ただ、見つけ出した妹は、既に心に深い傷を負わされていたようだった。

妹が見知らぬ男に襲われ、強姦までされかけ、ヴォロンテはこれまでにない憤りを感じていた。
そして妹がそのような目に遭ったのがノエルのせいだと知ったヴォロンテは、いつの間にか友人たちを率いてノエルの元に訪れていた。
ヴォロンテはノエルに「フォルスはあんたを庇って尊厳を踏みにじられた。あんたが受けるはずだった苦しみをフォルスが受けることになった。…それを聞いたあんたは、今何を思っている？」と。
それに対してノエルは一言、「ばかみたい。」…そう言い放った。
友人たちが何かを言いかけていたようだったが、怒りが頂点に達していたヴォロンテは、ノエルの頬を思い切り引っ叩いた。
「お前ごときが、俺の妹を侮辱するな。」
ヴォロンテはその言葉の後に続けて罵倒をしてやろうと思っていたが、友人たちに止められ、そのまま住処へ連れ戻されてしまった。

それから何日か過ぎ、ノエルは6番道路から別の場所へ移住したということを近隣の住民から聞いていたが、妹にはあえてそれを教えなかった。

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